カンボジア支援
連盟では2005年~2011年までは途上国支援事業としてカンボジアにて「知的障害者に優しい地域創り」の事業を実施してきました。
2005年〜2008年
- カンポンスプー、カンポンチュナンの17村で住民による知的障害者事業の実施
- 知的障害者の生活実態の分析、その他の村民の生活実態の分析、村の文化・社会活動の分析➟村民による個々の知的障害者支援が充実➟村民と知的障害者双方の変化➟知的障害者差別の消滅
2008年の報告書より当時の現地の状況の抜粋
対象象地域35村の生活状況
対象地の人口は20,393人(3,659家族)である。主用産業は農業であるが、中流以上の家庭の若年層の中には近隣の繊維工場で働く人たちもいる。住民の生活は川や池や森などの自然に依存しており、衛生的な飲料水や蚊帳などの利用は見られない。また、一般家庭にはトイレや水浴び場はなく、人々は戸外で用を足し身体を布で覆って水浴びをする。教育施設としては小学校が10校あり約70%の子供が学校教育を受けている。若年層の識字率は高いが、成人―特に女性―の識字率は低い(州行政)。経済状況は、(州の行政によれば)1日の収入が0.5ドルの貧困ライン以下である。また、住民自身が分析した経済状態は、富裕層、中流層、貧困層、極貧層の割合がおおよそ20%:30%:30%:20%(貧富の定義は表1参照)である。保健はヘルスセンターが担っているが、薬が有料な為あまり利用されていない。娯楽としては、中流以上の家庭ではテレビまたはラジオの視聴がある。ただ、配電がないため高額なバッテリーを利用せねばならず、視聴は1日に30分から1時間程である。そのほかの娯楽としては、村内の全住民が集まるお祭りやセレモニー(1年に約10回)、結婚式等(約4-5回)がある。なお、娯楽ではないが、住民全員の協働作業である田植えや稲刈りは村の大切な事業の一つである。
事業前の知的障害児者の状況
事業前、対象地域には知的障害の概念は存在しなかった。従って、PLAにより知的障害児者を抽出する時には、住民に知的障害者の特性や行動様式を紹介して、それに適合する人を見つけてもらうという方法をとった。したがって、本事業の対象者は医学的診断では知的障害ではないこともあり得る。知的障害ではない(かもしれない)人を事業の対象者とするかどうかについては議論があった。が、結論としては、対象者が何らかの知的な問題のために「生き難さ」があるのであれば知的障害であるなしにかかわらず対象とし、また、事業の進捗につれて対象者が支援を必要としない場合は対象から外すこととした。こうして、61名の知的障害と考えられる人が発見された。年齢構成で見ると、39%は20歳以下で、61%が成人であった。また、男女比は44%:56%であった。教育でみると、学校に通ったことがある人が17名(28%)いた。ただ、16名は数カ月で退学しており事業開始時点で学校に通っている人(児)は1名であった。退学の理由は、知的障害に配慮された教育ではないために教育効果がみられない(保護者の意見)ことや、いじめ(保護者と本人の意見)であった。また、子ども会などのプログラムにも参加しておらず、理由は、「いじめられる」、「他の子供に迷惑をかける」、「不要」であった。収入を得るという意味で就業している人はいなかった。60%は水汲み、薪拾い、掃除や簡単な料理や、家畜の世話、などの仕事をしていたが、同地域では収入にならない仕事を「仕事」として認めないため、知的障害者は全員「無職」であった。約20%の人に「放浪癖」が見られた。年に数回1週間ほど行方不明になるというもので、本人への危険が心配されるだけでなく探索に時間をとられる家族や住民の負担になっていた。また、50%以上が1日の大半(12時間以上)を1人で何もせずに過ごしていた。そして、これは放浪グセと関係が深い。なぜならば、知的障害児者は「余暇が苦手」だからである。彼等は決められたことを繰り返し実行することは得意であるが、「何をしてもよい」自由時間を与えられるとどうして良いかわからないのである。つまり、事業地の知的障害児者は、彼等にとっては最も苦手な時間を大量に持っており、どうしてよいかわからず放浪していたと考えられる。家族の知的障害児者への態度には過保護と無視の両極端がみられた。前者は家に閉じ込めて日常生活の全てを援助して本人の発達を妨げ、後者は食事を与える以外は何のケアもしないというものであった。また、知的障害本人におびえた表情の人が多く、本人に話を聞くと「家庭内でのいじめがある」という答えであった。理由としては、知的障害児者がいるために家族が働きに出られず貧困の原因になるなどがあげられたが、また、そのほかに家族の態度や言葉を知的障害者が「いじめ」と誤解していることも推察された。なお、母親達は「親亡き後の知的障害児者」の生活を心配していた。地域での人間関係をみると、75%の人は家族や隣人といったごく身近な人以外とは話をしたことはなく、また、68%は全住民が集まる村の行事や共同作業に参加したことがなかった。
そして、住民との関係が希薄な理由としては、
- 知的障害女性がレイプの被害者になることが多いため家族が外出を禁止している
- 本人の不衛生やそれに伴う臭いのために住民が彼らを寄せ付けない
- 知的障害児者が汚い言葉で住民をののしるため、村人が彼らを避ける(その背景には、住民による嘲笑や、体にさわるなどのセクシャルハラスメントがあった)
- 村の行事に出席して他の住民の迷惑になることを家族が恐れる
- 住民が彼らを「何もできない人たち」であると認識していて、村の協働作業に参加させない
などがあった。なお、同地域では知的障害女性に対するレイプが多く、また、結果としての出産もみられるが、知的障害者は「レイプされてもしかたがない人」と考えられているため対策は講じられず、また、犯罪として取り上げられたケースはなかった。
2009年〜2010年
- 住民活動は、知的障害者支援のみならず貧困者支援、子供、老人問題に発展
- 個々の知的障害者の収入創出事業、レイプ被害の現象
- 親の集まりの試行
- プレイベンとプルサットの10村に事業地を拡大
- 地域横断的な情報交換活動の実施
- 事業地の村長による事業成果の報告(コミューン会議)により他村から、事業開始の要望多数
2010年〜11年
- 事業地の拡大 18村
- 事業地の拡大に伴うカウンターパートNGOを増加
- 地方行政との関わりの強化
- 地域横断的な情報交換活動の実施
- 新事業地関係者による先行事業地へのスタデイツアーの実施、相談会の実施
その後、上記の事業を受け2013年~2020年までカンボジアの3州(カンポンチュナン州、カンダル州、プレイベン州)12村(人口11,201人)で、「障害者と貧困者のために医療セイフテイネット創り」を実施してきた。
障害者と貧困者のために医療セイフテイネット創り
事業の背景 -知的障害者と医療-
事業地はカンボジアでも貧困度の高い農村地域で、親たちは老後の保障を求めて子供を育てます。よって、将来を託すことができる子供には投資をしますが、そうではない子供にはお金をかけない傾向があります。医療費も例外ではなく、障害(特に知的障害)のある子供の治療費を惜しみ、その結果、治療を受けていれば避けられたであろう死亡や障害の重篤化が多くみられます。なお、これは親の経済状態とは関係が無く、例えば、2年前に21歳で亡くなったある知的障害男性の家は裕福でしたし、彼自身にも収入がありました。しかし、彼が原因不明の高熱に苦しんでいた時に、家族は病院に連れていかず、一週間後に亡くなるまで放置していました。この傾向に拍車をかけるのは、高額な治療費です。公的医療保険がなく自費診療なため、州立病院の治療費が平均的経済状況の住民の月収の20~30%に当たります。通院が度重なれば家族の生活費を圧迫するのは必定ですから、病院は敷居が高いのです。
事業
上記問題を解決するには、家族の負担の少ない方法で医療費を捻出することが必要です。そこで、住民と話し合い、障害者と貧困者のための医療セイフテイネット(以下ネット)を創ることにしました。別の言葉で言えば、医療費互助会または簡単な保険のしくみで、加入メンバー全員が積立および創出する資金をプールし、一定のルールのもとに医療費に使うというものです。ネットは村単位で創り、加入は家族単位です。加入は強制ではありませんが、障害者と貧困者の全家庭が加入しており、一部の村では障害者のいない中流以上の家庭も入っています。ちなみにメンバー数は404家族で、うち44家族に知的障害者がいます。なお、貧困家庭もメンバーとするのは、障害者と同様に医療から遠いところにいる彼らを含めないことは逆差別になると考えるからです。事業の主体者はメンバーです。よって、基本的事項はメンバー間の話し合いで決め、連盟は活発な議論を促すファシリテーションと事業の進行管理を担当します。また、将来はネットを村全体に広げることを見越して、事業の要所-例えば、組織やルールや、資金創出方法の決定等―には、非メンバーの村民にも議論に加わってもらいます。ネット資金はメンバーの積立金と資金創出事業活動で創ります。ただ、メンバーの経済力が弱いことから積立金収入が少ない為、資金の大半は資金創出活動で捻出することになります。よって、費用対効果の高い活動科目を選ぶことはネットの成否を左右する重大事項で、その為、2013年4月からの1年半をこの科目選びとパイロット事業に費やしました。そして、今最右翼にいるのは養豚です。実は、事業地では養鶏は盛んですが、養豚はあまり見られません。なぜならば、豚は鶏に比べて初期投資が高額ですし、成長が遅いため換金までに時間を要し、また、死亡すれば損も大きいからです。ただ、富裕層は養豚で利益を得ていることから、住民には養豚への憧れがあります。そこで、今回、連盟が費用を提供して養豚を試すことにしました。その結果、豚は鶏に比較して病死が少ないため、同額を投資した場合の利益が圧倒的に高く、また、種豚の子や孫を新たな種豚として活用することでネットの資産を増やすことができることがわかりました。試算によれば、数年後には、各メンバーが年に一度病院にいくことができるだけの資金創出が可能です。2020年には地元のメンバーで取り組みが実施できるようになり、事業としては終了した。